インパクトドライバーとドリルドライバー、DIYで初めて購入するにあたりどっちを買ったらいいか悩んでいる方、または実際現場で使っているけどよく違いがわからず使っている方など、この2つの違いが気になり検索している方は多数いて、またそれに対して解説記事や動画を出している方もたくさんいます。
これらで解説されている内容は全く間違っていないのですが、電工目線だと少し違うかなと思う面もあるので、今回は個人的な意見を語っていこうかなと思います。
(参考)
★サイズ感
上の写真ではドリルドライバーの年式が古すぎてかなりサイズ感に差がありますが、基本的には構造がシンプルなインパクトの方がサイズが小さく軽いです。ドリルドライバーはキーレスチャックと機械クラッチが付いているモデルがほとんどなので、その分ヘッドが大きくなっています。
例外としてPanasonic EZ1DD2はドリルドライバーでありながらビット式にしていて、かつ電子クラッチにしているので非常にコンパクトになっています。また10.8V以下のモデルはビット式もあるので、インパクトとほぼ変わらない大きさになっているものもあります。しかし近年18Vモデルでも各メーカーとも非常に小型化してきているので、インパクトとサイズ差はそこまで気にならないレベルになってきています。
★回転数
これは圧倒的にインパクトの方が多いです。インパクトの最大回転数は約3,600回転/分なのに対し、ドリルドライバーは約1,800回転/分と倍近く違います。回転数が多ければそれだけ作業量も多いのでネジ締めなどでは非常に有効ですが、穴あけについては適正な回転数で作業することが大切なので、細かい速度制御ができるドリルドライバーの方が優れています。(この辺については後述します)
★トルク・パワー
インパクトとドリルドライバーの違いで一番重要な部分です。モデルによって幅はありますが、標準的なものでインパクトが約180N・m、ドリルドライバーが約40N・m。インパクトはドリルドライバーの4倍以上! ・・・なんて言われることもありますが、これは力の種類が違うのでどちらが上と一概に言えません。
インパクトドライバーはその名の通り、回転に打撃を加えます。通常の回転をしている場合はドリルと変わりませんが、負荷がかかった場合は回転方向に打撃を加えて一気に切り込もうとします。その瞬間的なトルク値が約180N・mとなります。
一方でドリルドライバーは約40N・mの力を一定で常にかけつつ回転します。イメージとしてはインパクトがグッ,グッ,グッと回すのに対し、ドリルドライバーはグーーッと回していく感じになります。
この特性の違いからそれぞれ得意分野が違っていて、例えば重い台車を運ぶとき、最初に押すときは少し勢いをつけて押さないと動き出さないですよね。逆に動き始めたら一定の力で押していくほうが抵抗がなくスムーズに運べますよね。この力の使い方の違いがインパクトとドリルドライバーの違いに似ています。
★得意分野
それではさらに掘り下げて、それぞれどういった作業に向いているか考えていきます。
まずインパクトドライバーは瞬間的な力を必要とする作業が圧倒的に得意です。主に固く締まったボルトやネジ外しですね。手で回せない程強く締まっていたり、錆び付いて外れないボルトは多々ありますが、それをこのインパクトでガッ,ガッと少しやるだけでいとも簡単に外れます。解体・撤去作業では必須です。また回転速度が早いので、とにかくスピード重視で数をこなす作業(ビス,穴あけ)に向いています。
ドリルドライバーが得意とするのは穴あけ作業です。特に硬い素材(鉄板など)に穴を空ける場合はこちらでないとできない作業が多々あります。あけた穴がこちらの方が綺麗なのも特長です。またクラッチ機能がついているので、同じビスをきちっと揃えて止めるような仕上がり重視の作業が非常に得意です。ただし、後述しますがこのクラッチ機能は大は小を兼ねないので注意が必要です。
★ネジ締めはインパクト?穴あけはドリルドライバー?
この2つの違いを説明するときに、インパクトはネジ締めが得意、ドリルドライバーは穴あけが得意、一般的にこのように言われることが多いと思います。しかし個人的にこれはあまり正しくないと思っています。
まず一点として、ドリルドライバーにはクラッチ機能がついているのに、ネジ締めはインパクトと言われるのは違和感がありませんか?
そしてほとんど紹介されることはありませんが、絶対的な違いとしてドリルドライバーには手締め機能がついています。ドリルドライバーは回転させていない状態ではビットがロックされるので、そのまま本体を手でひねってあげると通常のドライバーのように手で締めることができます。しかしインパクトで同じようなことをやろうとするとビットが空転してしまうので締めることができません。※もしかしたらメーカーによってできるものもあるかもしれません
使ったことがある人はわかると思いますが、インパクトで締めようとしたとき、最後は丁寧にゆっくり回転させようとしてもガッと回ってめり込んだり、材料を割ってしまったりした経験があると思います。またボルト等を締め付ける際、M10の標準締付トルクは24.5N・m、M12は42N・mなのに対し、インパクトの180N・mで締めてしまうと壊れたり外れなくなってしまいます。
しかしドリルドライバーなら速度制御で非常にゆっくり回すことも可能であり、最後少し余裕を残して回転を止め、手締めで締めることができるので品質的にも完璧な仕事をすることができます。これができるのでクラッチ機能はあくまで締めすぎないための保険として利用している面が強いです。
では穴あけができてネジ締めも完璧なドリルドライバーの方がいいじゃん! ・・・となるかと言うとそうでもありません。世の中の需要や流通、実際に現場で使われているのは圧倒的にインパクトの方が多いです。理由としては、安い!早い!軽い! ということと、軽作業であればほとんどのことがインパクトで対応できるからです。
★実際の作業範囲・得意作業
それでは実際の作業ではそれぞれどこまで行えるのか、どちらの方が優れているのかを解説していきます。
まず前提として最新のモデルではどちらもかなり進化しているので、大きさや重さにそれほど差はなくインパクトのビットのブレも低減されているので、穴あけやネジ締めはどちらもそれなりにオールラウンドでこなせます。
穴あけについてはドリルドライバーが優れているのは間違いないですが、Φ6mm以下の穴であればインパクトでも問題なくこなせます。むしろ回転が早いインパクトの方が作業が早いです(刃焼けやステンレスは注意)。ただしΦ10mm以上になってくるとインパクトでは打撃がかかってしまい、スムーズにあけることができなくなってきます。さらにΦ20mm以上でホールソーなどを使ってあける場合、特に鋼材に対してはインパクトでは打撃がかかったり刃が欠けてしまったりと、頑張ってあかないことはないですが何発もあけるのには致命的に向いていません。つまり大きい穴あけ作業についてはドリルドライバーが必要不可欠です。
次にネジ締め作業についてです。ネジ締めといってもネジ締めとネジ外しは別々に考えていきます。
まずネジ外しについては前述のとおりインパクトが圧倒的に得意です。固いビスを外すのも回す早さも申し分ありません。ドリルドライバーについてはトルクが足りず外せないものもあったり、回転速度ではやはり劣ります。
ネジ締めについては2パターンあり、品質や仕上がりの綺麗さを重視する場合は前に述べたようにクラッチや手締め機能があるドリルドライバーが優れています。ただしドリルドライバーのクラッチ機能については、18Vタイプだと最低トルクでも強すぎてM4ビスでクラッチが効かないこともあるので注意が必要です。その場合は10.8V以下のモデルやクラッチに頼らない締め付けが必要です。一方品質をそこまで重視しない場合は作業が早いインパクトに分があります。またテクスビス(ドリルネジ,ピアスビス等)もインパクトだと一瞬で打ち込めます。
以上をまとめると
このようになります。(個人的な見解)
表からわかるようにドリルドライバーは非常に総合力が高いですが、小さい穴あけやビス打ちなどの軽作業についてはインパクトドライバーでも十分作業ができ、なにより作業スピードが早いのが利点です。また価格が安いことや軽いこと、現場では軽作業の比率が高いことから通常はインパクトを携帯している人が多いんですね。またインパクトでもビスストップなるものを使用すれば、ピタッとビスが止まるので打込みすぎる心配がありません。
★結局どっちがおすすめ?
プロの方については上のような特性がわかっていると思うので、両方持っている方がほとんどです。これから購入を考えている人でどちらかしかまだ買えないという方は、大きな穴をあける可能性がある人はドリルドライバー、軽作業だけならインパクトドライバーがおすすめです。個人的には18Vのドリルドライバーを持っていれば、インパクトはより軽い10.8Vの方がいいかもと最近思っています。
私自身はPanasonic製を使っていますが、初めて使うなら価格も安く汎用性の高いマキタがおすすめです。
またこれはあくまでプロ向けのモデルなので、DIYで購入を考えている人にはまた少しおすすめ品が違ってきます。それについては別記事で出そうかなと考えています。
以上、今回かなり長文になってしまいましたがご購入検討の参考になれば幸いです。